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コラム 1 『三者の関係』

建築主は、オーナー(owner)、クライアント(client)と呼ばれます。建築工事の請負契約書にある注文者(発注者)です。建築家(設計監理者)はアーキテクト(architect)、デザイナー(designer)と呼ばれます。工事実施のために必要な設計図書を作成し、工事が設計図書の通りに行われるかを監理する者をいいます。施工者はビルダー(builder)、ゼネラル・コントラクター(general contractor)と呼ばれ、工事を請け負う建築総合工事業者をいいます。建築の創造が円滑になされるためには、これら三者の関係がバランスよく、維持されることが必要です。建築主と建築家は「企画⇔提案」の関係、建築家と施工者は「目標品質の設定⇔合致品質の確保」の関係、建築主と施工者は「工事請負契約書」によって結ばれています。

建築主が持つ企画構想から、建築が完成するまでには、三者の間に発生する情報、問題点は多種多彩です。さまざまな情報が往復することによって、具体的に建築が作られていきます。建築主の持つ設計内容や工事内容に関する情報の伝達は、建築家を媒体として行われることが必要です。

情報伝達の方法は、その内容を確実にするために常に記録を取り、伝達し、確認するという方法をとることが大切です。その方式として、図面、指示書、質疑応答書、打合せ記録、変更見積り書などがあります。
口頭のみのやりとりは、後日に問題が生じるケースが多くあります。各工程に合わせて適確な書類作りと情報交換が必要です。充分な情報伝達をしていても、問題が生じる場合があります。少ない情報伝達、監理や検査をしない工事体制の中では、到底良質な住宅の確保は困難です。

良質な住宅を確保するためには、建築家の設計監理が不可欠です。設計から工事完了までの期間を、建築主と建築家と施工者の三者が、バランスを保つことも重要です。

弁護士(lawyer)は欠陥住宅問題において、問題が複雑化して紛争になってから登場します。

工事に掛かる前の契約書などから弁護士が四者目の関係者として加わる事が出来れば、欠陥住宅紛争は最小限に抑えられると思いまが、弁護士には、双方代理の禁止という条項があって、双方の代理人にはなれないようです。立会人、アドバイザー、相談人の名目で、建築紛争に強い弁護士が契約等に係わっていると、双方の関係が複雑化する前に、いろいろ対処できるケースも多いのではないでしょうか。

建築士にも同様の第三者的立会人制度が出来れば良いと思うのですが!(y.m)​

欠陥住宅問題の背景と係わり方 - 問題点の把握・ダイヤグラム 

弁護士法・第25条 双方代理の禁止

(職務を行い得ない事件)

第二十五条  弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

一  相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

二  相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

三  受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

四  公務員として職務上取り扱つた事件

五  仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件

六  第三十条の二第一項に規定する法人の社員又は使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、その法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの

七  第三十条の二第一項に規定する法人の社員又は使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、その法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの

八  第三十条の二第一項に規定する法人の社員又は使用人である場合に、その法人が相手方から受任している事件

九  第三十条の二第一項に規定する法人の社員又は使用人である場合に、その法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件

​ 同じ事件を双方から依頼されることを禁止しています。

コラム 2 『動きの中でとらえる』

建築を作る場合、建築主、設計者、施工者の良き連係が大切です。

問題が発生して、その連係が崩れると、「○○○が悪い」いや「□□□が悪い」と責任の「なすりあい」が始まります。特に住宅は、資金を出す建築主=使用者なので、問題が直接的で、方向性を失うと複雑化してしまう傾向にあります。

住宅作りは、最初に建築主が持っている要望の内、よく理解できる事とよく理解できない事(未知なるもの)があります。それらを具体的な建築物にするために、設計と施工があります。設計段階での技術的なコミュニケーションが充分に行われることも重要ですし、工事が始まってからも段階的な説明も必要です。建築主の要望が変化することもあります。変更や追加には、設計者、施工者共、苦労します。特に工事進行中の変更、追加事項への対応は深い洞察力が求められます。

良い建築を作るためには、建築主、設計者、施工者を個々の問題点(資質、知識、技術力)として捉えるよりは、その関係をどのように作れるかに係っているのです。コミュニケーション不足はややもすると、双方の関係に「ズレ」が生じてしまいます。各々の技術や方法の構築も大切ですが、工程にのっとった時期に、いかに各々が確実な方法を実施できるかに係っています。ようするに、その動きの中で、良い建築を作る目的に対して、予想できる準備と確実な製作(設計図、工事)の集合体として建築を捉え直すことが必要です。

例えば、「契約書の問題」は、建築主がその「契約書の形式」や「約款(やっかん)」の事を知らなければ、設計者あるいは施工者が助言をして補う事によって、確実な契約書の作成と契約条件の確立に至ります。補完するという関係です。「工事工程表」全体工程表、月間工程表、週間工程表の作成や月々の工事報告書の提出は、進み具合のチェックや検査業務からも重要な意味を持っているものです。その工事工程表の説明や検討から、未然に問題点を発見することが出来たりします。このように補完しあう関係の中で、問題点を『動きの中でとらえる』ことの意味があります。

問題点が現われてきた時の原因の追求と結果の処理、対策の検討も重要ですが、「動きの中」で「ズレを捉える」、「ズレを考える」という『動きとズレ』は重要なテーマです。
建築主の持つ設計段階と工事段階の係わり方、予算管理、設計者の持つ設計図書の作成と工事監理の意味、問題点、さらに施工者の持つ工事契約方法や工事現場の問題点を明確にすることによって、建築主、設計者、施工者の良き連係、システム作りにつなげられる。(y.m)

コラム 3 『欠陥の意味を知る』

どうすれば「良い建築」「確実な建築」に到達できるのか?

どのように「良い設計者」や「良い施工者」を探したら良いのか?そもそも良い設計者、良い施工者とはどんな人、どんな組織を指すのか?そして建築主(消費者)は何をすれば欠陥住宅に遭遇しないで済むのか?

住宅作りで建築主(消費者)が知らなければならない事がたくさんあります。しかし住宅という大きな買い物の場面なのに、初めての経験で、どうしたら良いかわからないという状況。マイホームという夢はふくらみますが、知らないという状況ゆえに、専門家に任せることになる訳です。この専門家に任せることがなかなか難しいのです。

専門家といっても多種多様です。結果として建築の欠陥等の問題が発生すると、建築主(消費者)が「建築を作るしくみ」に関して、無知であった事が大いに反省材料となる訳です。

建築に携わる設計者や施工者は、確実な建築を作る責任と義務を担っています。建築主(消費者)にも、ある程度の責任と義務があります。事前の知識を得て、慎重に対処することが必要です。建築主(消費者)はローコストで住宅を買ったり、建てたりすることを願っています。目の前にある節約という発想です。安全か危険かのチェックは出来ません。

「確実な建築作り」は工事中に重点項目の検査が必要ですが、設計監理を建築家に依頼するケースも住宅全体の総数からすれば微々たるものです。住宅メーカーの工事現場での工事監理者の専任度(工事監理者が現場に携わる度合)が数%とは信じられないでしょう。「建築を作るしくみ」を知ることが必要です。

欠陥住宅問題の事例から、その欠陥を発見できた経過を調べてみると、驚くべきことがわかります。ちょっとしたきっかけから問題を発見したケースが大変多いことです。隙間風が入ることを調べているうちに、その他の各所の欠陥を発見したり、ドアが開かなくなって初めて建築の曲がりを知ったというような結果です。額縁を掛けようとして部屋の歪みに気付き、もっと調べてみると様々な欠陥が、後から解ってくるという具合です。偶然に発見できたケースです。

欠陥住宅の多くは地盤、基礎、構造部材や接合部の欠陥、下地材の欠陥が相当なウエイトを占めています。基本的な「構造欠陥」です。この基本的な構造のチェックは建築の検査をする技術者(専門家)にとって、適正な時期に検査を行うのであれば、検査事項として、これほど明解で容易なものはありません。しかしいったん覆われて見えなくなってしまうと、この基本的な構造検査は床や壁を剥がして検査するという大変なものになります。ただし、専門技術者による適正な時期の適正な検査は、建築の数をこなして作る(早く手間を掛けずに作る)方式からするとそう簡単には出来ないことです。さらに欠陥箇所の修復には、相当の労力を要します。

「経済的な問題」と「構成上の問題」です。数や量の論理ではなく、いかに質の確保に重点をおくかに掛かっています。住宅(建築)は多くの部材と技術者(職人)のコンポーネント(構成物)です。質の確保を目標に、建築主(消費者)も設計者も施工者も、数や量の論理に対する反省とそれを超える「質の確保を目標」としたシステムを作りが必要です。

欠陥住宅であるかの線引きは、はっきりしていません。表面化していない欠陥住宅、軽度の欠陥住宅は多くあるという認識をした方が良いでしょう。欠陥住宅を取り巻く問題点は数多くあります。建築主(消費者)の資質の問題、予算、設計者や施工者の組織の問題、設計図、見積り内訳書、契約書、工程表、工事監理、現場管理、追加変更、検査、そして瑕疵の問題と 幅広く、いくつかの項目に関連しているのが欠陥住宅問題です。(y.m)

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